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    「大豆ミート」はブームか、次のスタンダードか(後編)

インタビュー

『フードテック革命』監修者・外村仁さんに聞く。
「大豆ミート」はブームか、次のスタンダードか(後編)

2021.09.13

エコに関心の強い層が30〜40代ママ世代が中心であるという事実は、日本の環境問題に対する意識が、世界の潮流から外れていることを意味しているかもしれません。かつてのアメリカでも同世代が牽引したエコライフ、現在はZ世代が中心的存在だそうです*¹。かつてのように “エコはお金がかかるもの” ではなくなっていることもその理由のひとつではないでしょうか。
市民の環境意識が大きく変貌を遂げつつあるアメリカで、その背景に何が起こっているのか。サンフランシスコ・ベイエリア在住で、『フードテック革命』監修者、『Smart Kitchen Summit Japan』を立ち上げたひとりで『Food Tech Studio-Bite!』ファウンダの外村仁さんに聞いてみました。

*¹ 参照:「THE FOOD INDUSTRY ASSOCIATION」
https://www.fmi.org/blog/view/fmi-blog/2019/10/22/how-the-rise-of-flexitarians-is-powering-plant-based-sales

アメリカで起こっている「プラントベース食品」への注目

「プラントベース食品」は、”フードテック”のひとつ

2019年のラスベガスで行なわれたCES(Consumer Electronics Show)で、プラントベース肉を作っている企業が高く評価され、瞬く間に全米で話題となりました*²。 注目すべきは「世界的な家電展覧会のなかで “食品業者“ が高く評価された」ことです。

  • 外村仁

    私の住んでいる地域では、日常的に使うような庶民派スーパーでもプラントベースミートを買うことができ、そのほとんどがミンチ状で売っています。最近では大型のモールでも手に入るようになり、人々にとってより身近になっています。植物由来のお肉なのですが、食感も味も非常に牛肉に近いという印象です。なかには、大豆由来成分ながら火を通すと茶色に変色する、という赤身肉の特性をも再現したメーカーもあります。かつカロリーが低く、地球環境にも優しく、値段も手頃なのが特徴的です。一方で、より植物由来であることを生かしているメーカーもあり、『肉の味が好きではない』というベジタリアンもいるので強い需要があります。
    日本でも次々に大豆ミートが商品化されていますが、いかにおいしく、調理が楽しめて、フレキシタリアン層を取り込めるかがカギになってくるでしょう。
    また、プラントベースは肉だけの話にはとどまらず、最近ではプラントベースのたまご液などを作っている企業にも注目が集まっています。ボトルに入った液体をフライパンに流して混ぜればスクランブルエッグができるものなどがあるのです。とくに調理時間が短い商品は人気で、いかに時短でおいしく健康的な食事が摂れるかというのは、超多忙な現代人にとって大事なエッセンスです

大手ハンバーガーチェーンと大手畜産企業も「プラントベース肉」に注目!

「プラントベース食品」は、”フードテック”のひとつ
  • 外村仁

    大手ハンバーガーチェーンにも注目したいところです。僕は在米21年になりますが、全米のすべての店舗でプラントベース肉のメニューが選べるように踏み切った大手チェーンの動きを見たとき、この社会的インパクトの大きさには驚きました。いよいよ健康志向や社会的意識の高い都市部だけの話ではなくなっているのだな、と。お肉のメニューと並んでベストセラーメニューに入っているケースも見かけますし、金額だってお肉のメニューより平均して1ドルほど高いもかかわらず人気です。すなわちプラントベース肉が、若くてまだそんなにお金を持たない層や、中流家庭などの層からも支持されている証明でもあります

かつてはエネルギーも食材も資源も大量に使っていた消費大国アメリカの心持ちが、国内全体で若い世代を中心に少しずつながら変わってきたようです。

  • 外村仁

    アメリカでもプラントベースが最初から前途揚々だったわけではありません。当初は、自然派スーパーでさえ、プラントベース肉の扱いに配慮せよと畜産業界からロビー活動があったと言われます。『精肉コーナーに置いてくれるな』『並べないでくれ、そんなものは肉じゃない』といった反発です。しかし、プラントベース肉の需要が止まらないと見極めると、自らを動物・植物両方の『総合肉屋』と位置づけるなど、鮮やかに方向転換をする大手精肉会社なども見受けられるようになりました。大手がプラントベース食品企業への投資や、自社のラボを立ち上げプラントベース肉の開発に着手する、といった動きです。こういった判断力の早さは見習いたいほどですね。

これから日本でも起こりうる「プラントベース食品」の浸透

では、日本はどうでしょうか。世界の流れに呼応して、Z世代からオピニオンリーダーが出てくるかもしれません。多くの若者が地球環境と向き合いフレキシタリアンが増え、それに呼応するように、各企業の「プラントベース食品」の開発も進んでいくのではないでしょうか。

  • 外村仁

    長年、世界のイノベーションの起こり方を見ていますが、これからは競争社会の中で足を引っ張り合うのではなく、技術を持った企業同士が協力し合う、そんな姿勢が必要だと思います。そのために私は日本で『Food Tech Studio-Bite!』というスタジオを設立しました。テクノロジーを活用して、食分野に新たな価値を創造する場です。ここには日本を代表する大手企業や、勢いのあるスタートアップも多数参画しています。日本の技術力を武器に、世界へ通用するフードテックがこのスタジオから生まれることを期待しています。

日本の高度技術の底力に注目!

  • 外村仁

    日本には、フードテックの芽ともいうべきすごい技術がたくさんあります。古くからの話をすれば、豆腐を中間媒体にしてシート状にしたものが湯葉だし、脱水して軽くしてかつ保存性を高めたものが高野豆腐だし、さまざまな伝統と工夫を積み重ねて大豆たんぱくを摂取してきたわけです。長年蓄積された高度技術を死蔵しておくのはもったいない。植物性と聞くと ”淡泊な” と想像しがちですが”旨み”を植物油で再現してしまうような凄ワザをもつ企業もあります。とにかく世界的に見ても日本の技術は非常に高度で、レシピなどの知見も蓄積されています。それらを抱えたまま世界の潮流から外れることはもったいないことです。それらの技術をフードテックと再定義して世界に出していく必要があると考えます。

現在は世界のフードテックを引っ張っていく存在とは言えない日本も、底力を発揮するときがきたのかもしれません。日本は元来の高い技術力と探究心のなかで、生活に高い理想を掲げて実現してきたのは言うまでもありません。条件さえ揃えば、そこからのスピードは速い。それになんといっても、美食の国。「世界一おいしいプラントベース食品」が生まれるならば、それは日本からであってほしいものです。

外村仁

ベイン&カンパニーを経て、1992年よりアップル社で市場開発やマーケティング本部長職などを歴任。2000年シリコンバレーにてGeneric Mediaを共同創業、資金調達から売却までを経験。First Compass Groupを創業し、現地スタートアップと日米提携案件を複数実現。2010年からはEvernote Japan会長として、ドコモ・日経との大型資本/業務提携を実現、同社をユニコーン企業に成長させる。シリコンバレー日本人起業家ネットワーク(SVJEN)の初代代表。未踏プログラムや異能vationプログラムのアドバイザーも歴任。近年はScrum Venturesのパートナーほか、シグマシス社の田中・岡田両氏と共に『SKSJ』の立ち上げや『Food Tech Studio-Bites!』のファウンダとして日本のフードテックコミュニティの醸成を積極的に行う。『フードテック革命』(日経BP)監修。東京大学工学部卒。スイスIMD MBA。

インタビュー 大豆ミート フードテック 海外事情 外村仁

※当サイトでの『大豆ミート』とは、「大豆肉」「大豆たんぱく」「ソイミート」「ベジミート」など、大豆からたんぱく質を取り出し、繊維状にしてお肉のように加工した食品を指しています。